ベルベット素材のハイブランドウエアといえば、アルマーニを想像される方は多いのではないでしょうか。
2020年秋冬ウィメンズコレクションのテーマは「VELVET NOTES」、2018年秋冬メンズコレクションのキー素材がベルベット、2016年秋冬ウィメンズコレクションのテーマは「Black Velvet」。特に2000年以降においては、彼の秋冬コレクションでベルベット素材が採用されなかった年はありません。今やベルベットはアルマーニのアイコン的素材とまで言われています。
ジョルジオ・アルマーニは1934年に経済的にはあまり恵まれないイタリアの家庭に生まれます。幼少期は第二次世界大戦の最中でもあり、衣服も十分ではありませんでしたが、彼の母親は軍服やパラシュートの生地をリメイクして、シンプルで控えめではあるけれど、裕福な家庭の子たちの服装に見劣りしないような、きちんとした服を仕立ててくれたそうです。また、学生時代の彼のファッションは天性のエレガンスを備えていたといいます。その後、彼は百貨店のバイヤーとして就職します。完璧主義者で、消費者のニーズにも、生産工程流通にも、大変詳しくなった彼は、メンズウェア「ヒットマン」のデザイナーとしてスカウトされ、そこからデザインを学び始めます。その5年後の1970年にはフリーデザイナーとして独立、1975年には、セルジオ・ガレッティと共に、ジョルジオ・アルマーニを設立します。
アルマーニの提案するファッションの特徴のひとつは、余分なものがなくて、エレガント、安心感があって時間が経過しても色あせない服であること。そう評する人は多く、また、アルマーニもそれを裏切らないことを意識しているといいます。
彼のファッションの原点は、おそらく幼少期の彼の母親が作ってくれた服であり、また彼の天分としてのファッションセンスがそうさせるのでしょう。
アルマーニファッションの大きな特徴のもうひとつは、いつも、訪れつつある時代の感性を汲み取り、時代にあった美的感覚を提示することによって希望や信頼を与えることです。
ジョルジオ・アルマーニ設立当時は、女性も男性も画一的なデザインの服装を身に付け、着る人の個性は重視されない時代でした。
フリルのような華美な装飾のついた派手な色合いのものが定番になっていた女性服の中に、アルマーニが打ち出したのは、機能的で、無駄のない、働く女性も着やすく、それでいてエレガンスを備えたラインの服装でした。
また、男性も厳格に定められた紳士服のスタイルに、皆が自分を当てはめていました。そこで、アルマーニはジャケットの構造を解体し、フォーマルなスーツが元来持つエレガンスを保ちながら、身体へのフィット感や着心地の良さを実現するソフトジャケットを提案しました。そしてそれらは大評判となったのです。
デザイン以外のことに関しても、彼の判断はいつも先進的です。彼のコレクションで毛皮が使われたことは1度もなく、BMIが18以下のモデルを使わないことをいち早く決めたのもアルマーニでした。
最近では、コレクションごとに商品が目まぐるしく変わることによって、実際のニーズより供給が過多となりがちである現状をサステナビリティの観点から鑑み、コレクションを小規模化することに言及したり、コロナウイルス感染拡大抑制対策のための多額の寄付や、自社工場での防護服の製造にも着手しています。
現在86歳にしてなお時代の最前線を走り続けているアルマーニ。本物のベルベットを製造できる場所が減少してきているこの時代に、アルマーニがベルベットに着目し、その美しさを再提示してくれていることは、ベルベット屋である弊社としては大変誇らしくうれしいことです。弊社も、心地よく美しい本物のベルベットを織り続け、これからも皆さんに楽しんでもらえる仕事をしていきたいと改めて思わせてくれるのです。
《参考文献》
レナータ・モルホ, ジョルジオ・アルマーニ 帝王の美学, 日本経済新聞出版社, 2007