「風と共に去りぬ」は、アメリカ南部の上流階級に生まれた主人公スカーレット・オハラが南北戦争前後の時代を生き抜く様を描いた、マーガレット・ミッシェルの長編小説です。映画、舞台と様々な形で愛されてきた作品である一方、人種差別的表現が問題視されてきた経緯もあり、先日のアメリカでの白人警官による黒人男性を死亡させた不当暴行事件ののちに、米動画配信サービスが「風と共に去りぬ」の映画配信を一時停止したことは大きなニュースとなりました。
映画では確かに差別的表現が随所にみられ、物語の舞台である南北戦争時代だけでなく、この映画が制作された1939年当時においても、黒人への差別意識と黒人奴隷制度時代を懐かしむ気配があったことが伺えます。
そのような問題を抱えていながらも、この物語が読み継がれているのは、やはり主人公スカーレット・オハラの人間力に、多くの人が魅了されてきたからでしょう。
彼女は生まれながらの美しさ故に我儘で傲慢でありながらも、力強く、時に不器用にでも、前に進み続けます。また、壮大な映像やコスチュームも、この映画の醍醐味の一つです。
小説が出版されたその年には100万部の大ベストセラーとなった作品の映画化とあって、映画製作費はなんと450万ドル。衣装デザインを担当することは多くのデザイナーの夢だったようです。デザイナーに抜擢されたウォルター・プランケットは、衣装素材でスカーレットの時代ごとの在り様を表現することに決めます。何不自由ない南部美人の時代には、ソフトなオーガンジーやチュールというロマンティックな素材を、強く生き抜くことを決意してからは、時と共に重いベルベットを使って、衣装を製作しました。
最も印象的にベルベットがでてくるのは、南北戦争で全てを失ったスカーレットが、ベルベットのカーテンをドレスに仕立て直して見栄を張り、好意を寄せてくれている富豪レット・バトラーに金銭を借りにいくシーンです。まさに自分の力で強く生きていこうと一歩を踏み出した瞬間です。
その後、スカーレットは商売を自ら切り盛りして成功させ、またレットとは婚姻関係を結びます。再び富を得ながらも、まだ欲や愛に葛藤し続けるスカーレット。ベルベットドレスの着用シーンもたくさんでてきます。
現在の日本においては、スカーレットが着ていたような豪華絢爛なベルベットドレスを着ることも見ることも日常的にはほとんどないかもしれません。
しかし、この物語の本質的な力強さや美しさが愛され続けているように、ベルベットも時代のニーズに合わせて形を変えながら、愛され続ける存在であるよう、私たちは尽力し続けたいと思っています。
(米動画配信サービスでは現在、撮影当時の時代背景と奴隷制度の残虐性を描かず美化したことを批判する説明動画が添付されています。)
《参考文献》
川本恵子, 魅惑という名の衣装, キネマ旬報社, 2009