今回は大黒町にて京友禅を中心とした絹織物製品を展示・販売されている紫織庵の館主・川﨑榮一郎さんにお話を伺いました。
―本日はお忙しい中、ありがとうございます。大黒町で商いをされることになったご縁など教えていただけますでしょうか。
川﨑:うちの商いのはじまりは昭和15年、初代が1666年創業の本家小泉から別家し、第二次大戦後本家の暖簾を引き継ぎ、さらに明治40年創業の富山の織物工場を引き継ぎ、長じゅばん地と裏地の専門業者として京都市中京区で営業を続けてきました。
平成11年からは、中京区で「京のじゅばん&町家の美術館 紫織庵」として展示・販売していましたが、その建物が大正初期の京都市指定有形文化財である町屋でしたので、商売するには様々な制約がありました。
西陣には知り合いが多く、ここに織物工場跡地が空いていると紹介してくれる人がいましたので、平成30年に越してきました。うちも織物工場を3年前まで続けていましたので、ここ西陣で聞こえてくる機音には非常に馴染みがあります。
石畳の京都らしい風情をとても気に入っています。
―天井の高い織屋建ての工場の風情を上手く活かしていらっしゃいます。
川﨑:ここは、昔は織工場でしたのでそのイメージをなるべく活かして、呉服商のイメージを一新するような斬新な展示方法にしました。 昔ながらの技術で製造した伝統工芸の指定を取れるものの展示と、その工程の一部が見学・体験可能で、商品販売もしています。
川﨑:体験イベントは半襟の型友禅染め体験を京都博物館施設連絡協議会のイベントなどに合わせて実施しています。
大正から昭和初めの紙の型など伝統工芸品製造現場で実際に使っている本物を使って、昔ながらの手摺り友禅の手法を体験していただくことができます。地色も柄の色も選んでいただけますし、大変人気があります。
友禅の製作過程を見られる場所もここ10年で、ほとんどが無くなってしまいました。
簡単な説明と体験ができる所を残したいと思って、ここで始めました。
―今だからこそ、本物志向の消費者が増えていると感じます。
川﨑:江戸時代の型をそのまま活かして色を今風に変えるなど、お客さんの望みに応じたものをお作りしています。昔は型を自由に操つれる職人もいましたが、今ではできないものも増えてきました。
―本物を残すご苦労がしのばれます。
川﨑:職人の高齢化が深刻な問題です。うちでは、職人に対して値切ったり、不良品の値引を強いるようなことは一切しません。
私自身が銀行マン出身で家業を継ぎましたから、これまでの呉服業界の因習には、納得できない部分が多くありました。
―商いに臨まれる佇まいが素晴らしいですね。
川﨑:うちでは販売価格を全て表示しています。一般的に着物の価格は流通が決めるので、値段表記が曖昧になることが多いのですが、それでは消費者の方に迷惑をかけることになる。
うちでもサンプルとして仕立てた浴衣や半襟もおいていますが、7割が受注生産です。そうすると在庫をもたなくて良いので販売価格がおさえられる。色替えの要望も同じ値段でさせて頂いています。手間は一緒ですから。百貨店にも委託販売というかたちでは納めていません。全て買取ってもらっています。
―そうすることで、職人さんに正当な賃金を払いながら、お客さんにも正当な価格での販売を実現なさっているのですね。
川﨑: 着物業界全体としては縮小傾向ですが、カジュアル着物や古着着物業界は拡大しています。
インクジェットプリンタで安く仕上げた着物を高値で売ることが出来るから儲かるのです。
4年前までは、京都で染めればインクジェットで染めても「京友禅」で通りましたからね。
友禅組合も遅ればせながら3年前からインクジェット、型友禅、手描き友禅、と表示を義務付けるようになりました。うちのように経済産業省指定の伝統的工芸品表示ができるものは極僅かです。
伝統的な製法のものにはほんものの良さがあります。うちはそれを守っています。
川﨑:江戸時代からの織り方で織った襦袢です。触ってみて下さい。
――伸縮性があります。ストレッチの利く布が江戸時代から織られていたとは。
川﨑:これが江戸時代からある本来の長襦袢、江戸縮緬です。明治大正期以降は、錦紗とも言います。ストレッチがきくので一日中着ていても着やすく着崩れしない。今の物は、海外製がほとんどです。 昔の物は劣るのではなく、かえって良いのです。
川﨑:うちには大正から昭和初めまでの友禅染の紙の型が4千点ほどあります。ゆかたなどは、裏表同じ昔ながらのしごき友禅の手法で染めています。
※しごき友禅:しごき染め( 型染めの地色を染める染織技法。ヘラを使用し染料の色糊をしごくように染める事からしごき染めと言われる)で地色を染めた友禅染め。染め上がったばかりの濡れた反物をすぐに蒸し上げるので美しい発色が得られる。
総絞りの襦袢も扱っています。今は機械でそろった絞りがほとんどですが、うちは全て手絞り。幅広の生地を一年かけて丹後で織ってもらっています。一年にわずかしかできないので、半年待ちです。
川﨑:自分だけの本物のおしゃれを楽しみたい方がジャケットなどの裏地として、うちの大正友禅の絵柄の生地を注文して下さいます。
海外の方からも注文を頂いています。
儲けの少ない商売をしていますが、本物を残すためにも、私が元気な間は、続けて行こうと思っています。
――ここに来ると本物に出会えますね。貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。
川﨑社長の様に確かな見識を持って商いをされる方が、西陣から発信下さることが日本文化の継承に欠かせないとしみじみ感じるインタビューとなりました。
《一般公開施設》
ギャラリー紫織庵(要予約)
住所 京都市上京区浄福寺通上立売上る大黒町709番地
電話番号 075-241-0215
紫織庵ご案内 | 京都の浴衣、大正友禅、襦袢、呉服の老舗、ギャラリー紫織庵 (shiorian.com)