ご縁を頂き、天鵞絨美術館を当地大黒町に開館いたしまして、6年の歳月が経とうとしております。
ここは、京都御所の北辺にあたる今出川通りと浄福寺通りの交差点を北へ上がった地点、まさに、西陣の中心と言える場所です。アスファルトの道を進むと道が忽然と石畳に変わり、広葉樹の木々が四季の移ろいを見せて、出迎えてくれます。
この石畳の通りはJR東海の広告「そうだ京都、行こう」のロケーションとしても採用され、観光地としても有名ですが、国内でも有数の職人技をもつ企業が軒をつらねる、職人通りでもあります。それはあたかも、江戸時代初期の芸術家・本阿弥光悦が、京都・鷹峯に文化人・芸術家・職人たちを集めて、切磋琢磨しあえる場として営んだ光悦村が再来したかの様相です。
魅力溢れる大黒町のご近所さんを多くの方に知っていただきたいと思いたち、僭越ながら、天鵞絨美術館館長の杣裕美が、各企業様のお仕事をインタビューさせて頂き、『京都西陣大黒町ご近所さん訪問』として、本ブログで不定期にてお伝えさせて頂きたく存じます。お付き合いのほど、宜しくお願いいたします。
第一回目は、この景観作りの計画立案段階から貢献されている、渡文株式会社さんをお訪ねしました。爽やかに迎え入れて下さったのは、取締役・渡邉博司さん。
――西陣といえば、まず誰もが西陣織の帯を連想します。中でも最も西陣らしい風情を保つ中央部で代々帯を織っていらっしゃる渡文さんに、そのお仕事の内容や思いなどお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。
渡邉:恐縮です。まずは、中を見て頂きましょう。
建物は、昭和11年に帯地製造業「渡文」の初代当主渡邉文七が、店兼住まいとして建てたものです。『西陣織屋建』を活かして平成元年にミュージアム「織成舘」として開設しました。
――見事な能装束ですね。
渡邉:京都にある観世流・片山家所蔵の約250年前の装束を原本として、手織り技術の保存を目的として監修復元しました。最初は、京都国立博物館の専門家に資料を頂きながら試行錯誤でした。約30年間で18領の能衣装を完成させました。過去の織物の研究と新たな技術の開発として行っています。
二階に上がれば、手織りの秀品の数々の展示品が見られます。特別公開の際には、職人さんが実際に帯を織っていらっしゃる現場の見学もできます。 隣接する「須佐命舎」は、宮大工の修行を積んだアメリカ人建築家の設計で、出雲の閉校になった小学校の廃材や型友禅の板を利用するなど、和洋折衷が見事に体現された建物。貸会場として様々なシーンで活用されています。その「須佐命舎」でお話を伺いました。
――渡文さんのお仕事についてお聞かせください
渡邉:帯地を製織しています。色んなやり方がありますが、基本的には帯のデザインは買ってきます。そのデザインをどう織で表現するかが腕の見せどころ。手がこんでいて、お洒落。それが渡文の帯です。
でもこのコロナ禍は和装業界にとっても難しい時代。和装するハレの場の機会がめっきり減ってしまいましたから。まさに過渡期で試行錯誤しています。
――大黒町とのご縁の始まりは?
渡邉:初代当主・渡邉文七が丁稚奉公から身を興し、独立後にそれまで、商いをしていた場所が手狭になっていたおり、たまたまこの場所を見つけ、移転したのです。昔の西陣の織屋のほとんどがそうであったように、店舗と住まいが一体となっています。
――それにしても、間口の広さも造りも立派ですね。
渡邉:下京にはもっと豪華な造りの物があります。質実を旨として建てています。
――大黒町への思いは?
渡邉:平成元年に大黒町に「まちづくり協議会」が設立しました。先人の残してくれた、西陣らしい伝統と文化、町並みを次代に引き継ぐために住民主導で立ち上げたものです。後に京都市が道路を石畳に改装してくれました。
――景観に配慮しての石畳への改装は、京都市にとっても初めての試みであったと聞いています。ご苦労の程が偲ばれます。今後の抱負をお聞かせください。
渡邉:西陣全体を面として捉えて、観光の一スポットとして盛り上げていきたいと考えています。
北野の天満宮から、大黒町へ。延いては出町柳駅までのルートを気軽に乗り降りしながら、散策できるツールが欲しいと思っています。自分の考えていることが正しいのかどうかもわかりませんが。
――今こうして言霊にされたのですから、新しい乗り物でお若い方々、妙齢の方々が西陣界隈をかっ歩される未来があるかもしれません。
――界隈のオススメスポットなど、ありますか?
渡邉:雨宝院、本隆寺、浄福寺、釘抜地蔵さん、宝鏡寺、晴明神社、首途神社、白峰神社…
――大黒町内の岩上神社、千本釈迦堂、閻魔堂もすばらしいですね。この辺りだけで充分一日京都を満喫していただくことが出来ますね。
家業にとどまらず、西陣ひいては京都全体の活性化を念頭に置いて、三方よし、四方よしの商いをなさっている視座の高さ、それが渡文さんの現在に繋がっているのだと感じました。 渡邉博司様、渡文株式会社の皆様、ご協力ありがとうございました。
《一般公開施設》
(公財)手織技術振興財団 織成舘
開舘時間 午前10時~午後4時
休舘日 月曜日(祝祭日は開舘)
京都市上京区浄福寺通上立売上ル大黒町693
TEL:075-431-0020