工場(こうば)のお仕事1 部分整経

隔週でお届けしておりました「彼の人と共にあった天鵞絨」ですが、連載を一旦終了致します。
今回からは杣長の工場での職人技やこだわりをお伝えさせていただきたいと思います。

杣長の工場では、天鵞絨を製織するために、主に2つの工程をおこなっています。整経と製織です。今回は、杣長の整経についてご紹介します。

整経とは、織機にかけるための経糸を整列させる作業です。
杣長は、1933年に和装ショール用の輪奈天鵞絨の製造をすべく創業致しましたが、かなり初期の段階から製織だけでなく、整経も行っていました。これは、分業することを常識としている西陣では珍しいことでした。
それでも杣長が整経も始めたのは、自社内に整経機があれば、経糸に工夫を凝らしたものを少量で試作するなど、創意工夫を重ねやすかったためではないかと思われます。

整経には、部分整経と荒巻整経がありますが、杣長で行っているのは部分整経です。
部分整経は、手間はかかりますが小スペースで行える昔ながらの方法で、荒巻整経は大きな設備を要しますが、高速で整経を行える大量生産品用の方法です。

前置きが長くなりましたが、ここから杣長の部分整経作業についてお伝えいたします。

まず納品された、コーンに巻かれた糸を50~200本程並べます。

各コーンから引き出した糸を写真のような枠に通して、絡み合わないようにします。 また、糸のたるみや張りを均等化させるための(おもり)による調整もこの場所で行っています。

均等な張り感となった糸を、次は当社オリジナルの糸切れ防止装置に通過させます。
ここでは糸一本ずつが針穴に通してあるので、もし糸が切れたら針が落ちます。針が落ちたら下のセンサーが感知して、整経機の稼働をストップさせる装置です。糸が切れたまま製織してしまっては、経糸がない部分が発生し不良品を作ることとなってしまうからです。

次に、糸を帯電防止のための溶液にくぐらせます。これは糸が静電気を起こすのを防いで、織りやすくするためです。 もちろん、最終加工の際に丁寧に洗い流しますので、液剤が製品に残ることはありません。

液剤の付いた約200本の糸は、きれいに整列させてドラムにセットし、巻きつけていきます。最終的には、1,500本~10,000本の経糸を整列させる必要があるので、もし最初に200本のコーンを並べていて、最終的に必要な経糸本数が10,000本である場合は、この作業を50回も繰り返すということです。

織り幅分の経糸をドラムに巻き付ける作業が完了すると、やっと実際に織機にかけるビームに巻きつけ直して、部分整経の作業は終了です。準備から完了までには、およそ3日かかります。  機械を使った作業ではありますが、手作業が多いことがご理解いただけたかと思います。特にドラムに糸を均等に並べる作業はとても慎重に行う必要があります。この作業を疎かにすれば、糸が重なってしまって、糸詰まりをおこしたり、糸と糸の間隔があきすぎて製品に縦筋が入ってしまったりします。また、糸によっては静電気で糸と糸の間隔が広がってしまうので、そのことを考慮して糸を整列させる必要があったりと、まさに職人技が必要となる工程です。

次回は、このビームに巻き付けた経糸と織機の経糸とを繋ぐ「経継ぎ」作業をご紹介します。